既婚者が離婚するということ、世間知らずの女子が後妻になるということ。
この、壮絶なイベントについて互いの両親を説得させるには時間がかかりそうです。そんななか、直哉さんが奥さんと娘さんと3人で旅行へ行くことになりました。今まで家庭がもめていて家族らしい時間を過ごせなかったことと、夫、妻という立場での最後の思い出にと奥さんが直哉さんを誘ったようです。
つまり、直哉さんファミリーには最後の家族旅行となります。
確かに、私との関係が奥さんにしれてからというもの、直哉さんの家族が遠出をした話を聞いたことがありません。
今回の最後の家族旅行の件で、旅行中は私に連絡もしないし、マナミも連絡をしないでくれと言われた時は、ものすごく不安な気持ちになりましたが、最後の思い出作りに私の存在は無用なんですよね。
すでに既婚者である直哉さんを奪った私でありながら、なんだか、どんよりとした不安に包まれてしまいます。
この家族旅行の件を聞かされたとき、ちゃんと私のところに戻ってきてねと言いたかったのですが、それではあんまり直哉さんを信用していないみたいなので、我慢してうなづくだけにしておきました。
本当はでも、不安で不安で仕方がなかったんです。離婚を了解したこの時期に旅行なんて。もし奥さんとヨリが戻ってしまったらなんて考えたら、何も手につかない感じです。不安と対立心。離婚までこぎつけておきながら、いまさら彼を取り返されたらどうしよう?
そういう不安がひとつ。一方で、いまさら彼を奪い返されてたまるかという前妻への対立心がひとつ。
本当に落ち着かない時間を過ごしました。
普通…
離婚が決まってから家族旅行なんていくものでしょうか?
離婚というのは夫婦の互いの心が修復不能で離れていく結末なのに、円満に離婚するために旅行に行くなんてどうかしてる。
本当の理由は、前妻が最後の逆転を試みているのかもしれないと被害妄想的に考えてしまうわけです。ところで、どこに旅行に行くのかは聞かなかったのです。
聞きたくもないし、細かい旅行日程も知りたくはない。正直、こういうのを嫉妬心というのでしょうね……。でも、旅行先を聞かなかったのはかえって良かったかもしれません。なぜなら…聞いていたら絶対にそこへ行って奥さんや娘さんに迷惑をかけたかも。
1週間後旅行から帰ってきた直哉さんと会えたときは、本当にうれしくてみんなが見ている前なのに、涙が出てしまいました。
ちゃんと奥さんよりも私を選んでくれたうれしさと、それにちょっとでも不安になった自分への恥ずかしさがごっちゃになってしまって…。
泣き出してしまった私を見て、俺はそんなに信用ないのかぁ?なんて笑っていました。でもその日はいつもよりずっと直哉さんにくっついて甘えて過ごしました。
旅行先では、今までの思い出話をしていたそうです。私のこともまだ許せるような気分ではないけれど、あなた(直哉さん)がそこまで言うのなら、あなたの人生に必要な人なのかもしれないわね…と言ったそうです。
どんな気持ちでその言葉を奥さんが言ったのかわかりませんが、ちょっと切なくなりました。でももう引き下がれません。直哉さんを幸せにするのは私しかいないわけですから。