結婚とは自分たちの問題である以上に、祝福されなければならないと今さら思うのです。
結婚式については、直哉さんともお金がなるべくかからないようにいろいろ話し合いを重ねて、式場の候補をいくつか、衣装の予算とか、招待客の数とかをある程度詰めました。でもこれは、私と直哉さんとの二人で話し合うことばかりの内容です。
一般的な結婚は、自分たちが幸せに満ちていることと周囲から祝福されていることはリンクしているはずです。
でも・・・既婚者との恋愛事情で離婚と再婚が同時進行した私たち。そこに、祝福なんて言葉がそもそも存在するんだろうか・・・・・・?
結婚とは二人だけのものであるようで、実はそうではなく、互いの親族が他人ではなくなるほど・・・周囲の人々の人間関係を巻き込む行為なのです。
そんな言い方をすると結婚なんてなんだかやましい行為に感じてしまいますが、一般的な恋愛で互いに初婚・・・親族一同、誰もが祝福するような結婚であればそれでいいのです。けれども、私たちは違う・・・・・・。
見よう言い方によっては、既婚者の男性を私が安易な恋心でもてあそんで離婚までさせてしまい、元嫁さんはシングルマザーに、働き盛りの既婚者は給料の半分以上を離婚の処理に費やさなければならないような人生を歩むようになってしまった。そんな結婚に親族の誰が心から祝福するのでしょうか?
もちろん、結婚を反対するわけではないにしろ、やはり祝福できない・・・そんな結婚で幸せになれるの?と心配する気持が本音だと思います。
その本音に対して、私たちが持っている正直な気持ちは後ろめたさとか負い目です。この人とならどんな問題だって乗り越えられる。だから、周囲から本気で祝福されことのない結婚を選んだ私たちには、互いの両親の初顔あわせが億劫で仕方なかったのです。
――直哉さんのご両親と私のパパとママが顔を合わせる日がやってきました。
当日、ホテルの中の日本料理のお店のお座敷を予約しました。
まず私たち家族が待ち合わせ時間少し前にお店につき、お座敷で直哉さん家族を待ちました。
緊張気味の直哉さんがお父様お母様を連れて、入ってきました。
お待たせしてすみません。今日はお時間を作っていただきありがとうございます。と私のパパやママに頭を下げる直哉さん。
改めて、席にみんな着き、あいさつをして、お互いの両親を紹介しました。
「この度は娘が大変周りの方にご迷惑をおかけし、申し訳ありません。そのうえ、――さんとの結婚をご両親に認めていただくことができ、親として本当に喜んでおります。ありがとうございます」
そんなセリフから始まりました。すると・・・・・・
直哉さんのお父様が返してきました。
「周りの人に迷惑をかけたのはうちの息子も同じですから…」
と、頭を下げた父に顔を上げるように言いました。
しばらく、私のパパとママが直哉さんを褒めるようなことをいろいろ話すと、お父様もお母様も、悪い気はしないのか少しは笑顔も出るようになって、場も和んだかな?
と思いました。でも直哉さんのご両親から私のことをどう思うとか、褒め言葉って言うのは変だけど、いい感じの言葉は全く出てきませんでした。
みんな無理してほめあっているんだけれど・・・本当の心の中は〝祝福しきれない〟気持が渦巻いているのが透けて見えてくるのでした。
結婚とはやはり二人だけの問題ではなさそうです。
この結婚にもはや反対はしない・・・けれど、祝福はしない。
そんな気持があらわになったのは、直哉さんのご両親でした。互いの両親を前にして、今春に入籍と結婚式をしたいことや式場のことなどを話しました。すると、私のパパとママは嬉しそうな面持ちで〝それでいいんじゃないですか?〟といったものの、直哉さんのご両親はうなずきませんでした。
「・・・・・・・・・」
沈黙の後、難しい表情をしながら直哉さんのお父さんが口を開きました。
「もう結婚を許そうと思った時から考えていたことだけれども、結婚式のような派手なことは止めてくれないか?やっぱり前妻さんのことを考えると、とてもそんなことできないはずだ」
その一言に、誰もが否定できない心情に包まれていたんじゃないでしょうか・・・。
でも直哉さんが言います。
「でもマナミにとってはちゃんと結婚式を挙げるって言うのはやっぱり夢でもあるわけだし…」
それに対して、直哉さんのお父様は自分たちの立場を考えなさい。と言うだけ。
直哉さんのお母様も後を追うように発言します。
「もしマナミさんがどうしても式を挙げたいと言うのならそれでも構いませんが、こちらは一切出席いたしません」
「・・・・・・・・・」
私の結婚は祝福されない結婚、そのことを確信した。
もう、誰もがこの重い空気をサッと流すようなこともできない、本当に影の差す場の雰囲気となってしまいました。テーブルの下で汗のにじむ両手を握りしめながら私は思いました。
私一人が結婚式をしたいとゴネていると思っているの?
なぜだかわからないのですが、私はなんだか憤ってしまったのです。自分勝手ですよね?そもそも、自分の幸せだけを中心に物事を進めてきた女だと評価されても仕方のない私です。あなたたちの幸せとやらの影で、離婚後のヒッソリとした人生を歩んでいこうとする元嫁さんのことをきにもせずに祝福されて結婚式を挙げたいとか・・・ちょっと図々しくない?もっともっと責められてもおかしくない女なのです、私は。
思い通りにならない展開に苛立たしくもなるさなか、私のパパが言いました。
「そうでしょうね。前妻さんのことを考えたら、結婚式なんて挙げていられるような立場ではないのはよくわかりました。しかしマナミは私たち夫婦のかわいい娘です。マナミがいつか花嫁衣装を着る日を思い浮かべて育ててきたんです。出来れば写真だけでもちゃんと残してあげたいと思う親の気持ちもわかってくださいますか?」
それに対して「それはそちらの自由です。ただ結婚式とか人を招いてとかそういう派手なことはやめましょうと言っているのです」
祝福されない結婚――。
ひとりの女として、この結婚に価値はあるのか?
そんな邪念すら抱いてしまう話し合いとなってしまいました・・・・・・。