後妻になるための前妻が提示してきた条件をどうやってクリアしてゆくか?
晴れて略奪愛が実ったとしても、その後の現実的な再婚生活には問題がたちはだかりました。経済的な問題もあります。結婚って、損か得か? を考えるタイプの人がいますけど、私はそういう女子ではありませんでした。汚れた恋愛を経験したことがない、若者の戯言とか現実逃避のロマンチストとか批判されたとしても、愛し愛されることだけを信じて人生を約束するのが結婚です…と自問自答していた私。ところが、その汚れた恋愛事情を体験してしまった私は、結婚観についても一転しそうな気配です。この結婚、自分の人生に「損か得か?」そんなことを最近深く考えてしまいます。考えを突き進めると、結婚は相手を幸せにするためのものなのか? それとも、自分が幸せになるためのものなのか? 混乱してよくわからなくなりそうなのです。だから、無理にでも自分自身に結論を出さなきゃって思い、既婚者の再婚相手になることは幸せどころか何年か先になって愛が冷却してくれば結局、自分は間違った結婚をやらかしてしまった…とか、損したのは自分、離婚してもすぐに再婚して、しかも私のような若い女性を再婚相手に選べた旦那だけが得をする結婚になりはしないか? と毎日が不安でたまりません。
経済的な面でもかなり厳しいです。同じ会社にいたので、直哉さんの給料はだいたいわかっていたのですが、そこから前妻が望む離婚の慰謝料を差し引くと、まるで私が新卒でもらった初任給の手取りくらいしか残りません。こんな計算していれば、この結婚が損だと誰でも思うはずです。離婚した既婚者が再婚相手を探すのは困難でも、私は若いんだから、その気のなれば婚活相手なんていくらでもいるはず。なにも無理して今の相手と結婚する〝価値〟はあるの?
しばらくは、会っても電話でもメールでも、その条件をどうやって再婚生活でクリアしていくかの話ばかりでした。
今、私は自分の家の仕事を手伝っていますが、それを加えてもそんなに余裕のある生活はできないし、二人で暮らすマンションやアパートを借りるのも大変そうです。
すると、直哉さんからこんな案がでてきました。
直哉さんの実家はだいぶ前に2世帯住宅に改築したそうで妹さんももう家を出ているので、空いているからそこに住めばいいじゃないかと言いました。
えっ……? 奥さんとは新しいマンションを購入したのに、私は直哉さんの両親と同居…、それって、なんか腑に落ちない損した気持ち。
直哉さんの実家は私の実家とは離れています。結婚しても家の仕事を続けたいと思っても通うのが大変です。だからと言って専業主婦では経済的に余裕が全くありません。
どこか仕事を探さないといけない感じです。
こうしていろんなことを考えていると、略奪愛の勝利と後妻になることが実現することはひとときの恋愛事情としては達成感や恋愛感情はさておき、この結婚、私にとっては不利益なものであるような気がしてきました…。
だからこそ、前妻は私に不利益を押しつけて直哉さんへの愛を試しているのだとわかりました。憎い相手が幸せになるのを黙って見ている人はいないでしょう。きっと私がこの条件を呑むことを諦めて直哉さんと別れるだろうと踏んでいるかもしれません。
そう思うと、なんだか自分を見くびられたような気がしてきました。
今まで一切、奥さんにコンタクトを取らなかったのは、ある意味私の真剣さを伝えたかったからかもしれません。
いくらでも私は結婚を待てる。直哉さんのことをいつまでも信じていられる。
でも、奥さんから見れば、私は直哉さんとまだまだ遊び半分で付き合っている女としか見られていなかったのかも。そうじゃないところを証明したい。
それには、直哉さんの言う通り、前妻の条件をすべて受け入れてやる!それで直哉さんと二人幸せになってみせる!
どんな困難があっても、それを乗り越える二人で乗り越えることに喜びや楽しみを見つけて、奥さんに見せてやろう。そう思いました。
私はただ待つだけじゃなく、直哉さんと手を取り合って前に進む強さを持とうと心にきめ、直哉さんに言いました。前妻の条件をすべて受け入れます。直哉さんと一緒に幸せになりたい。
直哉さんはうれしそうにわたしを抱きしめて、ありがとう。ありがとう。マナミはそう答えてくれると信じてたよ。これからの人生、ずっとマナミと一緒だよ。と言ってくれました。