後妻となる気持ちに決心がついた…そうは言っても私はまだ若い女子。
既婚者相手に略奪愛を繰り広げて、十年間子供を作らない条件で前妻に離婚の約束を取り付けて後妻となる私の意思に、私の両親が反対しない理由なんてありません。そもそも、私の両親は既婚者との交際自体を反対していました。さっさと別れなければあなたはまだ若いのだからもっと……などとお決まりの親台詞は何度も聞かされました。
そりゃあそうでしょうね、我が子の恋愛対象が既婚者だなんてどこの親でも納得しない話ですから。
親であれば年頃の娘の恋愛事情は〝平凡であってほしい〟と願うのが普通です。妻子ある男性と恋仲になっただなんて…親心としては怒りと不安でたまらないと思います。
さて再婚と後妻について、互いの気持ちが固まったところで、私の両親と直哉さんによる話し合いの時間を作ることにしました。
ところが今回は驚きました。パパとママの対応が随分と変化していたのです。既婚者との恋愛なんて言語道断!
別れたと言っておきながら、また直哉さんと今度は結婚の話を持ってくるなんて、今度こそ怒られて大反対されると思ったのに、パパもママもマナミが信じた生き方ならば、私達が反対してもしょうがないのかもしれない。と直哉さんに会うことを承知してくれました。その日、直哉さんは前妻が突き付けてきた条件をパパとママに見せました。
「再婚して10年間子供を作らないなら離婚に応じる」という条件です。
それを見たパパとママは、これは…。と言ったっきり、無言で厳しい顔をしてしまいました。
ママが、マナミこれはないんじゃないの?
夫婦の間に子供ができることは自然なことなのよ。それをほかの誰かからこうしろああしろと指図されるのはおかしいわ。
向こうの娘さんにマナミが生んだ子どものことを知られたくないなら、誰もその話を娘さんにしなければいいことじゃないの?と言い、私も本当はそう思うけど、奥さんがここまで厳しい条件を突き付けてきた原因は私にもあるのだから…と低く言うと、納得ができない顔をして、パパを見ました。
パパもこれじゃ生活だって苦しいじゃないか?結果的に、マナミまでが別れた家族を養うために働くことになる。君はマナミに生活の苦労をさせたいのかね?
「君の給料から慰謝料と養育費を差し引いていくら残るんだ?」直哉さんが○○万円くらいですね。と答えると、パパは首を振りました。
もしよければ、うちが持っているマンションがここ近くにあるからそこに住まないか?2DKだし二人で住むなら問題ないだろう?とパパは言ってくれました。
「でもマナミさんのご両親には経済的なご迷惑はおかけできません。僕の実家が2世帯住宅に改築してあるので、そこに住もうと思っています。僕が実家に入ることはもともとのうちの両親の希望でもあったので」
するとママはすかさず、じゃ、なんで奥さんと結婚された時に同居されなかったの?向こうの奥さんはマンションを買って、マナミは同居じゃおかしいでしょ?と少し怒ったように言いました。
直哉さんは、困ったように、実際のところあまりうちの母親と向こうがうまくいかなかったんです。うちの母親が同窓のよしみとか、妹の長い友達とかの気安さで少し干渉しすぎたため、ぎくしゃくしちゃって。
でも、こんな状況で結婚するマナミが同居してうまくやって行かれるはずがないでしょう?また結局うまくいかなくなって実家を出たくなっても、お金だってこんな状態では行くところがないでしょ。マナミがかわいそうです。あんまりじゃないですか。ママは引き下がりませんでした。
まずは向こうの両親の本当の気持ちを確認して、それから話をもう一度するということで、結婚報告は終了になりました。
最初はしょうがないと言う感じだったパパもママも、やっぱり奥さんの条件や、直哉さんの実家に同居することなどを考えると、反対の気持ちが強くなったのかもしれません。
でもそれはしょうがないかなとも思います。私も初めは、こんな理不尽なこと受け入れられるか!と思ったから。
でも今は、そういう理不尽なことも乗り越えようとするパワーがどこからか湧いてくるのを感じるのです。この障害さえ、楽しくてしょうがないのです。
既婚者との恋愛なんて不純きわまりないものだと批判されても自分にとっての恋愛事情はこれが真実であり、私の幸せはこの恋を実らせ後妻となることなのです。